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戸津作品の中の「天魔」 [shamanara]

戸津圭之助作品展「鎮魂の譜」
最終日に伺い再度観賞しました。
今昔物語に「天魔」の話がありました。
法界天魔・・・の興味深いお話です。

天の魔R0167111.jpg
物語のディテールが全て納まった作品です。

今昔物語 巻第一天竺 第六話
「天の魔が菩薩の修行成就を妨げようとする話」 
あらすじ

今は昔、菩薩が菩提樹の下で「これまでの諸々の仏は何の上に座って修行をされたのだろう」と
考えていたところ「草の上に座っていたのだ」ということを知りました。
そのとき帝釈天が人に化して、清潔で柔らかい草を採ってきました。
菩薩はその人に向かって「あなたはどなたですか』と尋ねました。

天の魔吉祥1R0167110.jpg
「私の名は吉祥と言います」。
菩薩はこの名前を聞いて大変喜びました。
天の魔菩薩吉祥2R0167110.jpg
「いい名前ですね、これから私は一切の不吉なものを打ち砕いて吉祥に転じるようにしましょう」と決意を話されました。
そして「その草を私に下さらぬか」と吉祥に頼みました。
吉祥は草を菩薩に差し上げて「菩薩が仏道の修行を成就され、悟りを得られて仏となられた時には、先ず、この私を煩悩の世界から悟りの境地に導いて下さい」とお願いしました。
菩薩は草を敷き詰め、その上で両足を組み端座されました。
それはこれまでの諸々の仏様と同じ様子でした。そして、みずからに誓って「自分は完全な悟りを開くまではこの座から立つことはないだろう」と決意を新たにしました。

天魔八部衆R0167116.jpg
守護神の八部衆は皆喜び、天界に諸々の神々も讃えました。

天魔骸骨R0167127.jpg

そのとき、魔の天の宮殿はゆらゆらと揺れ動きました。
魔王は「菩薩が樹の下で欲望を捨て端座して冥想を深め悟りを開こうとしている」、
「もし、道を悟り多くの衆生を導くことになれば、自分の境地を超えてしまう」と妬み心を起こしました。
「菩薩が道を究める前にそれを壊さねばならない。邪魔してやろう」と考えました。

天魔サッタR0167112.jpg
魔王の長男サッタは、このような父親の思惑を知って「なぜそんなに嘆いたり憂えているのですか」と尋ねました。
魔王は「菩薩は、今、樹の下に座り修業を積んで自分を超えようととしている、彼の破り心を乱してやろうと思っている」。
しかし魔王の息子サッタは「菩薩の清い心は他に並ぶものはなく八部衆も皆で守っている、
神通力、智慧も勝っている、妨げようとなさっても出来るはずのものではない、
何か悪いことが起こり咎めを受けることになる」と言って責めました。

天魔怪物4R0167113.jpg
また、魔王には三人の娘がいました。
その容姿は端麗で天女の中でも優れていました。
三人の娘は菩薩のそばに来て「あなたは徳が高く、人界や天界に尊敬されています 。
私たちは年頃もよく容姿も整いとても美しい。
朝晩、父の天の身近な世話もしています。
あなたのお世話も申し上げましょうか」と言いました。
菩薩は「あなた方は少しの良い行いをしてきたので天の身を授かっているばかりです。
容姿は美しいかもしれませんが、心の中ではこの世の中の一切の存在が生滅変化していることを考えていません、
死後は必ず地獄、餓鬼、畜生道の中に落ちるでしょう、お前たちを決して受け入れるわけにはいきません」。

天魔三姉妹R0167115.jpg
するとどうでしょうこの三人の天女たちは、たちまちにしてよぼよぼに老いぼれてしまいました。
髪の毛は白くなり、皺だらけで、涎(よだれ)まで垂れています。
 腰も曲がり餓鬼のように腹が膨らみ太く鼓のようです。
杖に頼りながらよたよたと歩いている者もいます。
魔王はこの有様を見て驚き、今度はやさしい言葉を使って菩薩をなだめすかしながら
「もしあなたが人間の楽しみを享受しないというならば天界の宮殿にこられららいかがですか。
王の位と数々の財宝をあなたに差し上げようでははありませんか』。
魔王は「あなたの過去に少しばかりの善い行いをしてきたため、天魔の王になり安楽な境遇であろうが、
その境遇にも限りがあって、いずれは三悪道ぬ沈んで再び出てくることははないでしょう。
自分が天宮に行けば罪の報いを受けることぬなる。それは私の望むところではない」。
魔王は「自分の過去に行為がどのようなものか、そのためぬ受けた報いというものが何か、あなたは知っていますか。
あなたの過去の行いも誰もが知っているというのですか」と問いました。

天の魔蓮華座菩薩R0167110.jpg
菩薩は「自分の過去の行いは全て地の神が知っているところだ」と話しているとき、突然、大地が大きく揺れ動き、地の神がきれいな甕(かめ)に蓮華を沢山飾って地中より湧き出させました。
地の神は魔王に向かって「菩薩は過去ぬ捨身・求道の心から私財、身体、家、妻子までも人に与えて最高の悟りの境地を求めてこられました。
だから今、菩薩の修行を妨げてはならないぞ」と言いました。
魔王はこの有様を見聞きして大変恐れをなし、身の毛が逆立ってきました。

天魔イノシシR0167117.jpg
地の神は菩薩の足を戴いて蓮華を手向けた後、いずこともなく消えていきました。
魔王は「どうもこれでは菩薩の心を乱すことは出来なくなった。ほかの暴力の手段を使って力ずくでも責め立てよう」と考えました。
天魔怪物2R0167120.jpg
するとたちまちのうちに、異様な形をした恐ろしい怪物たちが天空に 現れてきました。
鉾や剣を持ったもの。弓矢や固い杵の武器を持ったもの、竜やイノシシの頭の怪物たちが数多く集まってきました。
魔王の姉妹は骸骨の器を持って菩薩の前へ現れ、奇怪なしぐさをして菩薩の心を乱そうとしています。

天魔菩薩R0167123.jpg
しかし、菩薩はほんの少しも動じることはありませんでした。
天魔は焦り、いよいよ増々憂い嘆きました。

天魔フタR0167127.jpg
その時、天空からフタという目の見えない天の神の声が聞えました。
「自分は今、悟りを開いた釈迦を拝むことができた。それは平穏で慈悲の心に満ちている。
諸々の悪魔たちよ、敵意を抱き、言われなく恨みの心を含んで敵対してはいけない」。

天魔菩薩R0167128.jpg天魔天女R0167122.jpg
魔王たちはこの天の声を聴き、おごり高ぶって、嫉妬の心を長く留めながら元の天空に還って行ったと語り伝えられています。

戸津圭之介 記 2013年夏

参考文献

新 日本古典文学大系 33 今昔物語 ー今野達 校注 岩波書店1999発行

仏教の天魔とは修行を邪魔する邪心の世界を描いていました。
興味深いのは魔王の長男サッタの行動で、父王をいさめる行動をするところでした。
そして八部衆とはご存知阿修羅もメンバーの帝釈天に導かれ改修した元は天の魔の一族です。
悪が善を守るというストーリーでもあるのです。
地の神が全てを知っていて大地を揺るがし現われるというくだりは考えさせました。
そして三姉妹の申し出には菩薩は「生滅変化が存在していない」と三人の本質を見抜いてます。
生滅変化とは一瞬たりとて同じものは保てない無常なことを知らないでいると。
ひがんじゃダメ、なんだよね。
願いが成就するってことは修行です。
戸津先生が今昔物語の中から選ばれたこのお話を読んで「揺るがない悟りへの成就」は諦めないことを学びました。

 

 


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